今回は、地方自治体の財政を語る上で避けて通れない指標「経常収支比率」について、できるだけ分かりやすく解説していきたいと思います。

朝霞市の経常収支比率は97.5%。この数字を見て「やばいんじゃないの?」と思った方もいるかもしれません。実際、私も議員として財政の勉強を始めた頃は、この数字の意味がよく分からず、不安を感じたものです。

でも、結論から言うと、この数字だけを見て「朝霞市は財政破綻寸前だ」と考えるのは早計です。今日はその理由を、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

そもそも「経常収支比率」って何?

まず基本から押さえましょう。

経常収支比率とは、簡単に言えば**「毎年入ってくるお金のうち、どれくらいを毎年必ず出ていくお金に使っているか」**を示す割合です。

家計に例えるとこうなります。

あなたの家庭の月収が30万円だとします。そこから家賃、光熱費、食費、保険料、ローンの返済など、毎月必ず払わなければならないお金が27万円かかっているとしたら、経常収支比率は90%です。

残りの3万円(10%)が、旅行に行ったり、新しい家電を買ったり、将来のために貯金したりできる「自由に使えるお金」になります。

自治体の場合

自治体の場合、「毎年入ってくるお金」は主に市民税、固定資産税、地方交付税などの経常一般財源です。そして「毎年必ず出ていくお金」は、職員の給料(人件費)、生活保護や子育て支援などの社会保障費(扶助費)、借金の返済(公債費)といった経常経費です。

つまり、経常収支比率97.5%というのは、朝霞市に入ってくる経常的な収入のうち、97.5%が経常的な支出に使われている、ということ。新しい事業や投資に回せる「余裕」は2.5%しかない、という状態を表しています。

「75%が理想」は過去の話

ここで一つ、重要な事実をお伝えします。

かつて、市町村の経常収支比率は70〜75%程度が望ましいとされていました。国もそう言っていましたし、多くの教科書にもそう書いてあります。

しかし、その基準は今の時代には当てはまりません

なぜか。答えは明確で、社会保障費(扶助費)が劇的に増加しているからです。

全国の自治体はどうなっているのか

令和4年度(2022年度)の数字を見てみましょう。

  • 都道府県の平均:92.6%

  • 市区町村の平均:92.2%

そうなんです。全国の自治体の平均が既に90%を超えているのです。

さらに言えば、経常収支比率が75%を下回っている市区町村は、全国で64団体しかありません。1,741ある市区町村のうち、わずか3.7%です。

これらの団体の多くは、原子力発電所や大規模工場があって固定資産税収入が潤沢だったり、人口が極端に少なくて社会保障費の負担が軽かったりする、特殊な事情を持つ自治体です。

つまり、一般的な自治体で75%を達成するのは、もはや現実的ではないのです。

なぜ全国的に比率が上がっているのか

その最大の原因は、高齢化に伴う社会保障費の増大です。

日本全体で見ると、社会保障給付費は年々増加し続けています。令和5年度の社会保障給付費は約134兆円(対GDP比23.5%)にも達しています。この傾向は今後も続く見込みで、2040年には190兆円規模になるとの予測もあります。

自治体レベルで見ると、この社会保障費は「扶助費」という形で歳出に現れます。

扶助費に含まれるもの

  • 生活保護費

  • 児童手当

  • 保育所運営費

  • 障害者福祉サービス

  • 医療費助成

  • 介護保険関連経費

これらは法律で定められた義務的な支出であり、自治体の努力で簡単に削減できるものではありません。むしろ、高齢化が進めば進むほど、子育て支援を充実させればさせるほど、この費用は増えていくのです。

朝霞市も例外ではありません。待機児童対策として保育園を増やし、高齢者福祉を充実させてきた結果、扶助費は年々増加しています。これは市民サービスを維持・向上させてきた証でもあるのです。

経常収支比率だけで財政を判断してはいけない理由

ここからが本題です。

経常収支比率が高い=財政が危ない、と単純に考えるのは間違いです

その理由を、いくつかの観点から説明します。

1. 経常収支比率は「財政破綻」の指標ではない

まず知っておいていただきたいのは、経常収支比率は法律上の「健全化判断比率」には含まれていないということです。

2007年に夕張市の財政破綻を受けて制定された「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)では、自治体の財政健全度を判断するために4つの指標が定められています。

健全化判断比率(4指標)

  • 実質赤字比率:一般会計等の実質赤字額の標準財政規模に対する割合

  • 連結実質赤字比率:全会計の実質赤字額の標準財政規模に対する割合

  • 実質公債費比率:借金返済額の標準財政規模に対する割合

  • 将来負担比率:将来支払うべき負債の標準財政規模に対する割合

これらの指標のいずれかが「早期健全化基準」を超えると財政健全化団体に、さらに「財政再生基準」を超えると財政再生団体に指定されます。

ここで重要なのは、経常収支比率はこの4指標に入っていないということ。

つまり、経常収支比率がどれだけ高くても、それだけでは財政破綻にはなりません。経常収支比率は「財政の弾力性」を示す参考指標であって、「財政の健全性」を直接測る指標ではないのです。

2. 朝霞市の健全化判断比率を見てみよう

では、朝霞市の健全化判断比率はどうなっているのでしょうか。

朝霞市の財政状況

朝霞市は以下のような特徴を持っています。

  • 財政力指数:全国80位、埼玉県内でも上位(財政力指数が高いほど自主財源が豊か)

  • 実質赤字比率:該当なし(黒字)

  • 連結実質赤字比率:該当なし(黒字)

  • 実質公債費比率:早期健全化基準を大きく下回る

  • 将来負担比率:早期健全化基準を大きく下回る

つまり、法律上定められた「財政が危ない」とされる基準には、どれも引っかかっていないのです。

経常収支比率だけを見て不安になるのは、木を見て森を見ていないようなものです。

3. 100%を超えている自治体も珍しくない

驚かれるかもしれませんが、経常収支比率が100%を超えている自治体は、全国に53団体もあります(令和元年度決算時点)。

100%を超えるとはどういうことか。それは、経常的な収入だけでは経常的な支出を賄えず、臨時的な収入や借金で補っている状態です。

この状態が長期間続けば確かに問題ですが、一時的に100%を超えても、すぐに財政破綻するわけではありません。

日本の地方自治体には、以下のような「セーフティネット」が存在するからです。

自治体財政のセーフティネット

  • 地方交付税制度:財源が不足する自治体には国から地方交付税が交付される

  • 地方債許可制度:一定の基準を超える赤字団体は新たな借金が制限される

  • 臨時財政対策債:地方交付税の不足分を補うための特例的な借金が認められている

  • 財政調整基金:「貯金」として蓄えておき、収入が不足した年度に取り崩せる

これらの仕組みにより、よほど特殊な事情がない限り、自治体が財政破綻に陥ることは制度的に防がれているのです。

夕張市の財政破綻から学ぶこと

ここで、唯一の財政再生団体である夕張市の事例を見てみましょう。

夕張市はなぜ破綻したのか

夕張市が2006年に財政破綻を宣言した時、その赤字額は353億円。これは同市の標準財政規模の8倍に相当する途方もない金額でした。

破綻の主な原因

  • 産業構造の急激な変化

石炭産業の衰退により、最盛期12万人だった人口が1万人以下に激減

  • 税収が大幅に減少

  • 過大な観光投資

「炭鉱から観光へ」の転換を図り、ホテル、スキー場、遊園地などに多額の投資

  • しかし採算が取れず、赤字が膨らむ

  • 社会基盤の維持コスト

閉山した炭鉱会社から住宅、病院などを買い取り、市が維持管理することに

  • 広大な市域のインフラ維持費が財政を圧迫

  • 不適正な財務処理(ヤミ起債)

会計間の貸し付けや一時借入金を使った「隠れ借金」を長年にわたり繰り返す

  • 実質的な赤字が外部から見えなくなっていた

夕張市の破綻は、単に経常収支比率が高かったからではありません。

産業の衰退という構造的問題、過大な投資判断、そして何より長年にわたる不正な会計処理による赤字隠しが重なった、極めて特殊なケースなのです。

財政健全化法の誕生

夕張市の破綻を受けて、国は2007年に財政健全化法を制定しました。

この法律により、

  • 全国の自治体が統一基準で財政指標を公表することが義務化

  • 財政が悪化した段階で「イエローカード」が出される仕組みが導入

  • 「隠れた借金」も含めた財政の全体像が明らかになるように

つまり、夕張市のようなケースは、現在の制度下では起こりにくくなっているのです。

京都市の「財政危機」から見えるもの

もう一つ、最近話題になった事例を見てみましょう。

京都市は2021年頃、「このままでは財政破綻する」と大きく報じられました。「2028年度にも財政再生団体に転落する恐れがある」という衝撃的なニュースでした。

しかし、その後どうなったでしょうか。

わずか2年で「収支均衡」を達成

2023年度予算では、なんと22年ぶりに収支均衡を達成。2022年度決算では77億円の黒字となりました。

「財政破綻」と言われてからわずか2年で、なぜこれほど改善したのか。

改善の要因

  • 税収の回復

コロナ禍からの経済回復で、予想されていたほどの税収減が起きなかった

  • むしろ市税収入は過去最高の3,119億円を記録

  • 地方交付税の増額

国への要望が実り、必要な交付税額を確保

  • 行財政改革の効果

16年間で4,120人の職員を削減、年間330億円の人件費削減

  • ふるさと納税の活用

京都ならではの返礼品を充実させ、2022年度には95億円と過去最高を更新

この事例から学べること

京都市の事例は、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。

第一に、「財政危機」という言葉の使われ方に注意が必要だということ。京都市の場合、確かに公債償還基金からの借り入れが続くなど問題はありましたが、「このままでは破綻」というシナリオは、最悪の想定に基づくものでした。

第二に、自治体財政は景気や国の政策に大きく左右されるということ。税収が増えれば財政は改善し、減れば悪化する。一時点の数字だけで将来を断言するのは難しいのです。

第三に、そもそも日本の自治体が「破綻」することは、制度上極めて難しいということ。地方交付税制度や起債制限制度など、複数のセーフティネットが機能しているからです。

専門家の中には、京都市の「財政危機」報道は過剰だったと指摘する声もあります。住民サービスの削減や負担増を進めるための「演出」ではなかったか、という批判的な見方です。

もちろん、財政運営に気を緩めてよいわけではありません。しかし、過度に不安を煽る言説には冷静に向き合う必要がある、ということは言えるでしょう。

経常収支比率が高いことの本当の意味

ここまで読んでいただいた方には、もうお分かりかもしれません。

経常収支比率が97.5%であることの本当の意味は、**「財政が破綻しそうだ」ではなく、「財政に余裕がなくなっている」**ということです。

これは、新しい事業を始めたり、突発的な支出に対応したりする「弾力性」が小さくなっていることを意味します。

なぜ弾力性が低下しているのか

繰り返しになりますが、最大の原因は社会保障費の増大です。

  • 高齢化による医療・介護費の増加

  • 子育て支援の充実(保育所の増設、児童手当の拡充など)

  • 生活保護費の増加

  • 障害者福祉サービスの充実

これらはいずれも、市民生活を守るために必要な支出です。「経常収支比率を下げるために社会保障を削れ」というのは、本末転倒でしょう。

「弾力性の低下」は全国共通の課題

経常収支比率の上昇は、朝霞市だけの問題ではありません。日本全国の自治体が直面している構造的な課題です。

高齢化が進む日本において、社会保障費の増大は避けられません。そして、それに見合うだけの税収増が見込めない中、経常収支比率は上がらざるを得ないのです。

国の制度や財政の在り方自体を見直す必要がある、という議論も出てきています。自治体の努力だけで解決できる問題ではない、という認識が広がりつつあります。

では、朝霞市は何をすべきか

経常収支比率が高いことが直ちに危機を意味しないとはいえ、財政運営に気を配る必要がない、ということではありません

むしろ、「余裕がない」状態だからこそ、より賢い財政運営が求められます。

1. 優先順位の明確化

限られた財源の中で、何を優先するのか。市民にとって本当に必要なサービスは何か。これを常に問い続ける姿勢が重要です。

2. 公共施設の最適化

朝霞市でも、公共施設の老朽化に伴う更新・改修の必要性が高まっています。すべての施設を同じように維持するのではなく、統廃合や複合化を進め、効率的な施設配置を目指すことが求められます。

3. 歳入確保の努力

税収を増やすためには、地域経済の活性化が欠かせません。また、ふるさと納税の活用、公有財産の有効活用、受益者負担の適正化なども検討課題です。

4. 持続可能な行政運営

デジタル化による業務効率化、民間委託の活用、職員のスキルアップなど、より少ないコストで質の高いサービスを提供する工夫が必要です。

5. 市民への情報公開

財政状況を分かりやすく市民に伝え、理解と協力を得ることも重要です。「財政が厳しい」と言うだけでなく、なぜ厳しいのか、何が優先されるべきか、市民と一緒に考える姿勢が求められます。

結論:経常収支比率97.5%は「気にする必要があるが、過度に心配する必要はない」

最後に、この記事の結論をまとめます。

朝霞市の経常収支比率97.5%について

気にする必要がある理由

  • 財政に余裕(弾力性)がなくなっている

  • 新規事業や突発的な支出への対応力が低下している

  • 今後も社会保障費の増大が見込まれる

  • 公共施設の老朽化対策など、今後大きな支出が予想される

過度に心配する必要がない理由

  • 経常収支比率は「財政破綻」の指標ではない

法定の健全化判断比率に含まれていない

  • 全国の自治体が同様の状況にある

市区町村平均は92.2%(令和4年度)

  • 75%以下は全国で64団体のみ

  • 朝霞市の健全化判断比率は良好

実質赤字なし、将来負担比率も基準内

  • 財政力指数は全国上位

  • 自治体の財政破綻は制度的に起こりにくい

地方交付税、起債制限など複数のセーフティネット

  • 夕張市のような事例は極めて特殊

  • 経常収支比率の上昇は社会保障充実の裏返しでもある

必要なサービスを提供してきた結果

おわりに

財政の話は、どうしても難しく、不安を煽りやすいテーマです。

「経常収支比率が高い」「財政が厳しい」と聞くと、「大丈夫なのか」と心配になるのは当然のことです。

しかし、数字の意味を正しく理解することが大切です。経常収支比率97.5%という数字が示しているのは、「財政破綻が近い」ではなく、「財政運営に工夫が求められている」ということです。

私は市議会議員として、これからも市の財政状況を注視し、市民の皆さんに分かりやすくお伝えしていきたいと思います。そして、限られた財源の中で市民サービスを維持・向上させるための議論に、積極的に参加していきます。

財政について疑問があれば、ぜひ声をお聞かせください。一緒に朝霞市の未来を考えていきましょう。

参考資料

  • 総務省「地方財政状況調査関係資料」

  • 総務省「地方財政白書」

  • 総務省「地方公共団体の財政の健全化」

  • 朝霞市「財政状況資料」

  • 各種報道資料

執筆者(AIも使用)朝霞市議会議員 渡部竜二Website: https://ryu2-w.jp/ インスタ: https://www.instagram.com/ryu2asaka/ X: https://x.com/ryu2asaka

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